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沖縄自治研究会

沖縄自治研究会

第1回講座 下

5、今後の課題
 最後に、これからの問題についてです。私が前の本の中で書きましたのは、沖縄は他の地域にも増して、強い自治権、アイデンティティを主張する姿勢のある地域であり、そういう地域の憲法は、まずやはり、県、琉球諸島という言い方でもいいし、沖縄県という言い方でもいいと思いますけれども、県全体で作られて、それを受けて各市町村がそれぞれ自分のところの特徴を活かした自治基本条例をつくっていくのが一番わかりやすくて、ダイナミックなやり方だと考えていたわけです。  
 沖縄県が他の都道府県とは違う、独特の性格を持った自治体の構造を作り上げていくことができるためには、最近はやりの「特区」にしてはどうかということになりそうですが、私は特区では無理だと思います。特区というのは、これはあくまでも規制改革会議の提案を受けて各省庁が行政的にこういう規制は緩める、この地域については緩めるということを行政的に決める制度です。基本法レベルの統治制度を動かすような制度ではありません。従って、特区の枠組みの中でこんなことをやろうというのは無理であり、そもそもやろうとしていることの主旨に合わないと思います。例外を認めてくれよというわけではないんです。沖縄が、自分たち自身の憲法を作って、自分たち自身の統治の構造というものを創造していく、それを認めさせるというのが、自治基本条例の考え方であって、これは決して特区の発想ではうまくいかないと、私は思います。従って、やり方としては、結局のところ憲法95条に書いてある、1つの地域に関する特別立法をやる場合にはその地域の住民の住民投票にかけなければいけないという規定を使って、国がまず沖縄は独自の地方自治制度を採用できるという法律を国の特別法で作る。これがまず前提ですが、こういう特別法を国全体の世論を動かして作らせるというぐらいのことでないと、本当に実のある自治基本条例はできないのではないかと思っているわけです。では基本法の中では単に、地方自治制度についての沖縄の独自の制度を、特別法として作るというだけのことでいいのか私は数年前にはそれしか考えておりませんでしたけれども、これだけ一国多制度とか何とかという話が広がってきますと、むしろ地方自治法の、地方自治体の統治構造のあり方についての規定を緩めてしまって、それこそ自治体はそれぞれ憲法を作ってよろしい、統治構造も自分で選んで作ってよろしいというような規定をおいた上で沖縄は沖縄で独自の制度を作るというような道筋もあるかなと、今は考えております。

 しかし、これは憲法問題とのバッティングが出てきます。私は憲法を変えてもいいというのは、一般論としてはそのとおりだと思いますけど、さっきも言いましたように、日本国憲法のアイデンティティというのはどこにあるかというと、これは平和憲法であるというところにあるのであって、そこまで一直線に手をつけるような憲法改正は安易にすべきではないと考えております。従って、できれば地方自治法の改正ぐらいで済めばいいなというふうに思っているわけであります。そのためにも、できればやはり95条を使った特別法のようなものができればいいのではないかと考えているわけです。その中身については本の中でも少し書いておりますので、関心のある方はお読みいただきたいと思います。

 つぎに、こういう特別法を受けて、県の自治基本条例ができ、それが市町村にまで広がっていくということはいいのですけれども、この条例をどういう性格のものとしてつくるかが問題です。すなわち憲法の枠をはみ出した案を作るのか、あるいは憲法地方自治法の大きな枠の中にはあるけれども、部分的には法をはみ出す冒険しているというようなものがいいのか、それとも法的整合性を考えて、情報共有とか、政策評価とか、そういうところでいろいろ味付けはするけれど、どこを取ってみても絶対に法に触れないようなものを作るのがよいのか、いろいろな考え方が私はありうると思います。第1段階でとにかく、基本条例というものを作ることが大切だと考えて、比較的当たり障りのないものをつくる。宣言的規定には思いっきり沖縄の心を盛り込むけれども、ルールというか、拘束力、規範力をもった規定には法的整合性に配慮して、あまり法律とバッティングしないような条例を作るのも、1つの考え方です。

 基本条例は、まず作ることに大きな意味があるので、作るということに慣れる。市民がやれるんだ、自治体がやれるんだということを確認する意味で、基本条例を作ってみるということに意味があるので、あまり差し障りのない条例から作ってみるというのも1つのアプローチだと思っています。
だけど、先ほど言いましたような、私は潜在的には沖縄は自決を主張したっていいのではないかという気がしているので、そういう意味合いを込めた特別自治制度というものを展望するのであれば、そこへの道筋をある程度書き込んだ基本条例でなければならないのです。思い切った条例をちゃんと作って、条例案を作成する段階からこの研究会のように、憲法制定会議に当たるようなものを、各地域から代表を選び出して設け、案をまとめる。これを日本の国に、国会に向けて示し、特別法を作ってもらいたいと要求する。国会を動かし、世論を動かし、マスメディアを動かして、特別法を作ってもらって、そういう沖縄の独自の制度を実現できるような条件を作り出していくというようなやり方を、遅かれ早かれどこかでやっぱりやらないといけない時が必ず来ると、私は思っています。どっちからアプローチするか、これから本当に性根をいれて考えなければいけないことではないか。

 ところが、よく考えてみると、いまや県はそういう方向に向けて動いてくれそうにない雰囲気になっています。県からスタートして市町村へという順番を変えなければいけないことではないかというので、ロードマップ(行程表)を書き換えて、順番を変えてはどうかと思っています。

 要するに、市町村からいろんな面白い基本条例を作る。単にモデル条例を作るだけじゃなくて、どこかの市町村が非常にインパクトのある基本条例、場合によっては上位法とバッティングするような基本条例を作って、それを合図にして、県を取り巻く新しい自治へのうねりを作り出す。県も、県の基本条例というものをつくらなければすまないのではないかと考える雰囲気を作りをしていくことが、当座は現実的なのかなというふうに考え、順番を変えて市町村から県へというシナリオにしたらどうかという提案をしたわけであります。

 実は沖縄だけではなくて、それこそ、雨後のタケノコみたいに自治基本条例が出てきている中で、都道府県レベルの基本条例はないんですね。高知県がただ1つ案を作っただけで、これも完全に棚上げみたいな形になっているわけで、県というのはなかなか自治基本条例を作らない。北川さんが来られたときに、「どうして三重県は基本条例を作らなかったんですか?」ということを聞いていただきたいと思いますけれども、あれだけ改革派の知事が登場してきていながら、行政評価をやる、情報公開をやる、マニフェストまでやると、いろんなことをやっているわけですけれども、自治基本条例は県のレベルでは作られていません。これはきっと難しいんでしょうね。1つは規模が大きい。つくるとなれば、それなりのものをつくらなければならない、いろんなことをカバーしなければならないというそういう難しさがある。それから2つ目は、国との関係が近い。そう簡単に国との関係を調整して基本条例をつくるという方向にもっていけないという事情が都道府県にはあるでしょう。それから3つ目には、府県制そのものがかなり動揺し始めているわけです。実は、自治基本条例以前に、道州制の案を考えている県があるわけです。府県を合併して、道とか州とかいうものをつくって、新しい地方自治制度をつくるということを、かなりまじめに考えている府県がたくさんあるわけで、そうすると今ある県の基本条例つくってみてもしょうがないのではないかという考え方が、ひょっとしたらあるのかもしれません。

 そんなことがあって、なかなか都道府県レベルの自治基本条例づくりというのは進んでいないわけで、これは沖縄だけの問題ではないという側面があるのではないのかと思います。しかし沖縄は、やはりできれば自治基本条例をつくって、それを実現するために沖縄から特別の自治体制度をつくる、一国多制度をつくるというぐらいの日本の地方自治法制度全体に対する揺さぶりをかけていいのではないか。それは道州制につながるのか、連邦制につながるのかどうか、わかりませんけれども、それぐらいの揺さぶりをかけるということを県が県レベルでやらないといけないのではないかと、私は思っているわけです。

 いろいろございますけれども、中身はこれから考えていくということでありまして、私もそんなに体系的なことを考えているわけではございませんので、後の議論に委ねたいと思っております。

 いずれにしても、こうして基本条例というものを1つのきっかけにしながら、沖縄の新しい自治の可能性を広げていく時代がやってきたわけです。もちろんそれは条例づくりだけを一生懸命やっていてもできない課題でありまして、そういう市民自治立法のための政治的な環境作りをやっぱりしなければならないでしょう。それこそポスト戦後的な状況の中で、徳島や長野や島根やいろんなところで起こっている、市民型の運動、地域のこと自分たちのことは、自分たちで決めるんだという運動と、どこかでつながっていくような改革を、沖縄の中で、積み重ねていくということが大事なのであって、それこそ55年体制型の社会運動から、21世紀型の市民運動への転換を、意識的に条例づくりの運動と重ねながら、実現していく必要があるのではないか。

 今日伺ってみて驚きましたけれども、条例づくりの運動にこれだけたくさんの方々が集まっておられるというのは、基本条例制定運動が沖縄の新しい市民運動の核なのだろう改めて再確認した思いがいたします。しかしそれでも基本条例づくりだけやっていたのでは多分だめだろう、その周囲で雰囲気作りをするということがないと駄目だろうと思います。沖縄でも多くの自治体や離島は合併問題で苦しみ、財政問題で悩んでいるわけで、そういう問題をすっ飛ばしたかたちで条例を作りましょうと言うだけでは話はすまないわけですね。そういう困難な状態に置かれている現場と認識を付き合わせ、考え方を付き合わせる努力をしながらこういう条例を作っていくということが、やっぱり重要なのではないかなという気がいたします。

 いずれにしてもこの沖縄自治研究会の運動は極めてユニークだと思います。そういう意味でそのユニークさを是非とも発信していただきたいと思います。インターネットでこの研究会を検索いたしますとバーっとたくさん情報が入ってくるわけです。若い人は多分たくさん知っているだろうと思います。だけどやっぱりもっと多様なメディアを通じて、沖縄自治研究会でやっておられること、そこで議論されていることを発信していただきたい。私は沖縄自治研究会のことが広く知られていけば、たくさんの人がここに調査に来るだろうと思っております。それぐらい思い切って、思い切って、この運動を全国に発信するための試みもやっていただきたい。そして、全国のいろいろな運動にインパクトを与えていただきたいなというふうに考えているわけでございます。


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